7巻衝撃プロフィ大公開記念祭り +++

☆ なつき様からの頂き物 ☆
『はちみつよりもあまいことば』


「進次」
 耳元に落とされた言葉に、瞬時には反応出来なくて。
「…隊長、今、なんて…?」
 毎日毎日ひよこに怒鳴り散らして、もうずっと隊長に会っていなかったものだから。
 ちょっとした用で隊長が防災基地に来たのに偶然会えたのをいい事に、たらんです。と、こそこそ誰も来ないような所で抱きついて。
 ゆっくりと隊長の腕とか体とかを、触れるだけだけれどそれでもじっくりと堪能している最中に。
 隊長が、なんか言った。
 窮屈なほどの腕の中、合わせた胸(というかもうほとんど埋まっている状態であるのだけれど)の所から少しだけ顔を上げて、隊長の顔が見えるようにして、そう問い掛ける。
 隊長は、少しも表情を変えず、進次。とさっきよりも大きな声で、一音一音はっきりとそう口に出した。
「…俺の名前じゃ…ないですか」
「そうだな」
「そうだなって…たいちょう…」
 平素言われなれないから。
 しかも隊長はほとんど俺の事を嶋本、もしくはシマ。って呼ぶしで。
 そんな、進次って。
「…隊長、ちょっと腕の力緩めてください」
「何故だ?」
「何故だって…」
 言わせんでくださいよ。
 赤くなってしまった自分の顔を隠す為だって、そんな恥ずかしい事、よう言わん。
 てか、その行動もじゅうぶん恥ずかしいけど。
 隊長の低くてよく通る声で、自分の名前を呼ばれるっちゅー恥ずかしいシチュエーションに、ホントは身悶えして、こっちから抱きつくの要求しといたくせに、出来る事なら逃げ出したいくらい。
 恥ずかしくて居たたまれない。
 しないのは、隊長にくっついていたいから。
 でも恥ずかしい。
 って、この考えのがもっと恥ずかしい…って言うか全部恥ずかしい…
「頭、沸きそうです…」
「…?」
 グラグラする頭。
 隊長はそんな俺を気遣うような眼差しで見るから。
「もう、あかん…」
「嶋本は時々分からない事を言うな」
 隊長ほどじゃありませんて。
 隊長の同時通訳要るような言動に、三隊のみんながどれだけフォローしまくってるか。
 俺とか高嶺さんとか三隊のメンバーとか他の隊の隊長らは、付き合いが長い分事細かに言わんでも分かりますけど。
 ふと、一隊とのレンジャー訓練の時の事を思い出す。
 あの時のヒヨコ共のえ?にフォローしたのも、そういや俺だったわ。
 え?が、えらい訳わからーんて響きのえ?だったし。
 隊長の思いが伝わらんのも歯痒いしで。
 つうかヒヨコが俺に迷惑掛けすぎなんや。ボケ!
 そんな事を考えてたら、赤みを帯びた頬がゆっくりともとの温度にかわって行ったのが自分でも分かって、ほう、と溜息をつく。
 少し冷えた頭でようやく、何で隊長はいきなり俺の名前なんか呼んだ?って、そう考えられるようになった。
「嶋本?」
 溜息をついた俺に疑問符付きの声で隊長がいつもの呼び方で名を呼んで。
 もう大丈夫です。と答えると、
「そうか」
 と簡素な返事が返ってくる。
「分かってます?」
「何がだ?」
「…ええですけど」
「?」
 ホントこの人、レスキューの事ばっかりなんだろうな。と、
ついつい苦笑すれば、あまり変わらない表情に珍しく眉間に皺が寄る。
「…頭沸きそうだって言ったのが、収まったんです」
「…あぁ。沸く訳は無いからな」
「も、たいちょう…」
 そりゃ当たり前に考えれば。そうか。で返事されるから、つい言ってみたかっただけの事なんですけどね。
「お前が大丈夫だといえば、総て大丈夫なんだろうから、そうかと答えただけだ」
 珍しく補足を入れながら、隊長がさらりとそう言う。
 わ。また再沸騰しそう。
 隊長は前置きが無いって言うか、いきなりな人で困る。
 そう思いながら多分また赤くなった頬を、隊長の胸に押し付けて隠す。
「隊長」
「何だ」
 隠しながら、さっき少し冷静になったときに思いついたなんでを。
「何で急に俺の名前なんか呼んだんですか」
 思わず口にしたのは、きっと、頭沸いてたんだろうと。
「恋人同士なら、下の名前で呼ぶものだろう」
「!」
「星野と大羽がそうしていた」
「!!」
「この前、官舎の前で見かけてな」
 だから。と、何事も無いような声で、隊長は。
 そして、もう一度、進次。と呼んだ。
 低くて、澄んでいる声を、さっきとは違ってほんの少し擦れさせて。
 …何ちゅー事してんねんあのクソヒヨコ!
 隊長になんちゅー学習させんねんヒヨコの分際で。
 クソ。
 …わかっとる。
 これは八つ当たりや。
 単に恥ずかしくて、そんな風に脳内で罵倒していないと、もう、このまま。
 って…
 …
 …
「…すいません隊長」
「?」
「嬉しくて死にそうです」
「…そうか」
 そうや。
 素直になれ、俺。
 隊長に、こんな風にこんな声で名前呼んでもらえるんは俺だけやって。
「進次」
「はい」
「進次」
「…連呼しまくりですね」
「嬉しいんだろう?」
 隊長はそう言って、進次。と俺の名前を繰り返す。
 面白みが無いと思ってた自分の名前。
 それが今甘く耳元に。
「超嬉しいです…」
「そうか」
 それ以外言いようが無い。



おわり。


うわぁぁあ〜〜!なっ、なつき様のサナシマを頂いてしまいました!!しかも「進次」記念SSを(号泣)強引に祭り掲載許可まで頂きました。ヤッター!!
隊長の「進次」がたくさん聞けて幸せです〜〜!vv 嶋がタイチョに甘えててタイチョも嶋をこの上ないかわいがりっぷりでもうたまりませんでした!!しかもさすが星大マスター様!星大ネタも素晴らしいタイミングで盛り込まれてらっしゃって。サナシマSSなのに星大の幸せっぷりも垣間見れて一粒で二度美味しい状態でウハウハさせていただきました!隊長ったら放っておいたら一体どこで学習してくるんだか…ってかデバガメですか?(笑)もうかわいすぎます!嶋が沸きそうになるのわかりますっ!!ドキドキ…v 
本当に素敵なお話をありがとうございました!!
 なつき様の素敵サイト→ 利己的電脳 -期間未定-




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