2月3日
-節分といえば丸かぶり-
本日2月3日、
基地での昼食時間中の話。

俺が朝コンビニで買うてきた昼飯を机に並べよったらちょうど隊長も俺の向かいの席にやって来はった。
「あっ、隊長もこれから昼ですか」
「あぁ」
「じゃあ一緒ですね」
俺はヒヨコの訓練で、隊長は三隊として基地に待機で。お互い久しぶりに一緒に基地におるっちゅーのに朝からすれ違いばかりで全然話らしい話も出来んかった。
お茶入れますね――と俺は席を立ち、自分の分と隊長のお茶を給湯室へ入れに行き戻って来た。
戻ってくると、席に着いた隊長が何やら神妙な顔で机をジッと見つめてた。
「何かあったんですか?はい、お茶です」
俺は隊長にお茶を差し出しながら聞いてみた。
すると、

「…それが昼ご飯なのか?」

俺が出しかけて置いてた昼飯を指して聞いてきはった。
「あ、はい、そうですけど」
何やろ?俺の昼飯…なんかおかしいんやろか?

「巻き寿司・・・切れていないように見えるのは気のせいか?」

ああ、そういうことか!
「切れてなくてええんですよ。これ丸かぶり寿司・・・あっ、こっちでいう恵方寿司ってやつです」
「恵方寿司?」
「隊長知りませんでしたか?ここ数年でこっちにもこの風習だいぶ浸透してきたようですけど。2月3日節分の日は、その年々で定められた恵方の方角を向いて切れてない巻きずしを一本丸々かぶりついて食べる風習が関西の方ではあったんですよ」
「それは初耳だ」
関西にはかわった風習があるな――と隊長はまじまじと巻き寿司をながめながら言いはった。
「逆に、俺はこっちに来るまで、丸かぶりは全国的行事やと思ってましたよ」
ホンマ、こっち来て丸かぶりの風習が関東ではないっちゅーことを知った時は軽いカルチャーショックを受けたで。節分の日は豆まいて、夕飯は必ず巻きずしっちゅーのが定番やったからな。

「しかしその行為に何の意味があるんだ?」
えっ?丸かぶりに込められた意味ですか?
小さい頃から当然の行事としてかぶりついてたから改めて聞かれたら俺もいまいちようわからんくて返答に困ってもた。
すると、
「いろいろ説はありますがその年の幸せを願ってとか、幸運を海苔で巻き込みそれを体内に取り入れるとか、願い事を叶えながら食すと願いが叶うとかいろいろ言われてますね」
「高嶺さん!」
とたまたま隊長の後ろを通りかかった高嶺さんがナイスタイミングで教えてくれた。
「願い事が叶うのか?」
「あっ、そういや俺も願い事が叶うって話は聞いたことありますわ!それ以外は全然知りませんでしたわ〜」
「まぁどれも信憑性はないですけど。一応そのように言われてますよ」
高嶺さん…関西出身ちゃうのにスゴいな…流石救急救命士!って関係ないし。

「では俺も夜は巻きずしを食べないといけないな」
「おっ!隊長、丸かぶり初体験っすね!そうや丸かぶりには一つルールがあるんですよ」
「ルール?」
こっからは永年かぶり続けてきた俺の出番や。
「はい。恵方の方角を向いて、寿司を一旦食べ始めたら食べ終わるまで一切しゃべったらあかんし一気に食べ切らなあかんのですよ。」
「すごいルールだな」
俺も思います。一体誰が考えたんやか…
子供の頃は毎年、家族全員がそろった夕食時、みんなで同じ方角を向いて、一斉に巻き寿司に無言でかぶりついてた。当時はかぶりつくのに必死で特に何も思わなかったが、今思い返すと、その光景はかなりシュールな光景やった。

「で、俺が小学生の頃は、学校の給食でも節分の日だけミニサイズの巻きずしが出たんですが、」
それもまたすごいな――と給食で寿司が出ることにも隊長はビックリしはった。
「小学生ってしょうもないことすんのが好きやから、巻きずし行事は恰好の餌食で、みんな無言で食べようとするんですけど、それをよってたかって笑かし合うんですよ。そやから給食の巻き寿司を無言で食べ切れた試しありませんわ」
あっ、でも俺も他の奴らが食べよるのを笑かしてだいぶ阻止しましたよ!やられたままでは終わりませんよ――とやられっぱなしじゃないことも主張しておいた。
すると、
「小学生の頃から嶋本は元気だったんだな」
と隊長がふっと口元を緩めた。
「はい!元気が取り柄でしたから!」
俺は隊長が笑ってくれたのが嬉しくて、さらに元気さをアピールすべく力こぶを作ってみせた。

「そんなわけで、せっかく隊長と一緒に食べれる昼飯やけど、寿司食べてる間だけはしゃべれませんから堪忍して下さいね」
と、先に詫びておいた。
そしたら隊長も「ああ、気にせず頑張ってくれ」と応援してくれた。

一度巻き寿司を食べ始めたら食べ終わるまで口をはずしてもいけない。
そして今年の恵方は南南東。
隊長と向かい合って座ってたけど、南南東を向くと隊長に左肩を向ける形となった。背中向ける事になったらすごい見た目アホやからまだ横向きくらいでよかったわ。
「ではいきます」
スタート宣言する必要ないけど一応断わりを入れ、そして食べ始めた。

普段巻きずしを切らずにこうしてかぶりいて食べる事はないし、こんな行儀悪い食べ方が当たり前に許されるのもこんな時しかないから、この行事は密かに好きやったりする。一本丸々かぶりついて食べるってあたりも「食ったぁー!」って達成感があるしな。
そうや、願い事は…
ととりあえず「海難が減りますように」とか「隊長とこれからもいい仲でおれますように〜」と、願い過ぎやねんとつっこまれそうやけど思いつくまま数打ちゃ当たる戦法でいろいろ願いながらかぶり続けた。



「すまん・・・嶋本」
突然隊長に声をかけられた。
−?? どないしたんですか?−
寿司を食べてる途中でしゃべったらアカンから、俺はとりあえず寿司をくわえたまま顔だけ隊長の方に向けた。
そしたら隊長、
「すまないが、それ止めてくれないか?」
丸かぶりの事やろか?
なんで?
俺がわけわからないのが伝わったようで、隊長が「本当に申し訳ない」と一言言ってから訳を言ってくれた。

ブフッ!

俺は思いっきりまだ食いかけだった口に入ってた寿司を噴き出してもた。

「ッ!ゲホッゲホッ…!たっ、隊長ぉー!」

「・・・すまない」

ありえへん!
隊長昼間っから何考えてはるんですか!

「そっ、そんな事言われたら、俺今後も思い出してもて、もう丸かぶり出来ませんやん!」
いや別に丸かぶりにそんなこだわりはないけど、そう言う事やなくて、隊長の発言が信じられへん!
「これは伝統行事だからと言い聞かせたんだが、一度思ってしまうともう…本当にスマン」
「ヒドい・・・。隊長、そんな目で見てはったなんて・・・」
多分この時の俺は顔真っ赤どころか、もしかしたら半泣きになってたかもしれへん。
隊長のたった一言の爆弾発言で、俺の頭はショート寸前。
パニクったせいで拙い言葉しか出てこなかったが精一杯の文句を言ってやった。
「セクハラや・・・信じられへん、ヒドすぎます・・・巻きずしにも失礼や・・・」

隊長は「嶋本、本当に俺が悪かった」と何度も謝ってくれた。
俺もだんだん冷静になってこれて、何度も隊長は謝ってくれてるのに自分もちょっと言い過ぎたなと思い返す余裕も出てきた。
そして、
もういいです、俺もちょっと言い過ぎました――と言おうとしたその時、

「だが本当にエロかったんだ。いつもと違って横から見ていると、嶋本の寿司の持ち方といい、くわえ方といい、もう全てが・・・」

最終爆弾が容赦なく投下された。

「たっ、隊長のドスケベ〜〜!


もう絶対許しませんから!


その後、俺は謝ろうと試みる隊長を悉く無視して仕事の鬼と化した。




「何ね?軍曹さんば、昼終わってから妙にピリピリ機嫌悪くなかと?」
「うん…見るからに殺気立ってるよね」
「昼に何かあったんかのぉ。ほれ、あそこ。基地の窓んトコから真田さんが顔を出してこっちをうかがっとるぞ」
「あっ、本当だ」
「そこ!何しゃべっとんじゃー!喋りながら訓練出来るとは、お前等には簡単すぎる内容やったか〜。そりゃ悪かったな〜。それじゃあお詫びにスクワットダッシュ100本追加じゃ!おらぁー!キリキリ走らんかぁーー!」

「「「「はっ、はいーっ!!」」」」


おわり☆





久し振りの更新なのに下品なネタですみませんでした。自分も数年前までは節分で寿司を丸かぶりする風習は全国共通のものだと思っててニュースか何かで関東で丸かぶりがないと知ったときはめちゃくちゃビックリしました。
嶋と機長には周りの人たちにどんな奇妙な眼差しでみられようとモリモリ寿司にかぶりついて食していただきたいです。





モドル