60話ヨリ
それはアイスよりも甘い――


今日も今日とて「ましま」で洋上訓練。
今はサーキット訓練が終わり、神林と石井はギャーギャーうっさくてまだまだ力有り余っとるようやから、船から見えとった無人島まで遠泳させとる所や。
午後の訓練はコレで終了。
あいつらが戻ってきたらさっきの無様な情けないギリギリ勝ちの反省会じゃ!
で今は二人の戻り待ちでしばし休憩中。

「ましま」での訓練中使用するようにとあてがわれたクソ小さい二階建てベッドの上段。
そこが唯一一人でゆっくりくつろげるプライベートスペースやった。
ベッドにねっころがって目の前に迫ったちょっと圧迫感を感じる白い天井をボーっと眺めてみた。

隊長元気にしてはるやろか・・・・・

最近ほんまお会いしてへんわ。今までのリペ訓やったら毎日基地には戻れとったからなんとかお会いする事は出来とったけど。今回は泊まり込みの洋上訓練やしな。
基地には毎日何度か連絡取っとるけどその電話は全部専門官直通やし。専門官からは3隊は特に問題なく通常業務をこなしてると報告は受けてるけど、そん時に「隊長はお元気ですか?」なんて恥ずかい事聞かれへんしな〜

隊長の携帯… 知っとるけど、隊長の空き時間も把握しとるけど、用もないのにただ声が聞きたいだけでかけるなんて・・・
うわ〜!そんな恥ずかしい事絶対でけへん!めっちゃ女々しいやん!かけてこられた隊長も迷惑やっちゅーねん!


はぁ…でも、隊長の声聞きたいな〜
元気にしてはるかな〜

寝っ転がったままポケットから携帯を取り出して、暗記なんてとうの昔にしてもてる隊長の番号をアドレス帳から開いて見つめながらそんなアホな事考えてたその時――

ピルルルルッ  ピルルルルッ!

ビッ、ビックリした〜!
危うく顔面に携帯落とすトコやったで!
誰やねん!?
と着信中画面に表示された名前を見てさらに驚いた。

   隊長!?

「もっ、もしもし!隊長!」
――あぁ、出るの早かったな。今大丈夫か?――
「はい!」
うわ〜〜!ホンマに隊長や〜〜!!
俺はベッドから飛び起きて思わずフトンの上に正座してもた。
何かあったんやろか?
訓練中、基地からの連絡の殆どは俺の携帯に入るようになってる。
そやから普段携帯持って仕事なんかしとらへんけど、訓練中はいつ連絡入っても対応できるように常時携帯しとるねん。
で、

「3隊に何かあったんですか!?」
――?どうしてだ?――
「いや、普通の連絡やったらいつも専門官通してかかってくるから。隊長がかけてきはるなんてなかったし、3隊に何か問題でも起きたんかな〜って」
――いや、何も問題はおきてない。――
「良かった〜一瞬何かあったんやろかてドキッとしましたよ〜」
――悪かったな。――
いえ、悪いなんてとんでもありません!
隊長の声が聞きたい〜て思てた時に隊長から電話もらえたんですから!
これを運命!以心伝心と言わず何と言いましょう!って自惚れすぎか。
どんな連絡事項でも久しぶりに隊長の声が聞けただけでもう俺はめっちゃ幸せです!

「所で隊長、何か用やったんですか?」
確か隊長も今は休憩時間のはずや。俺への電話なんかに時間かけさせたら隊長の休憩時間がなくなってまう。そう思って話を切りだした。

――用はないんだが、久しぶりに嶋の声が聞きたくなってな――

×#※¥△×#@!!!
ゲホッゴホッゴホッ!!


――大丈夫か?風邪ひいてるのか?――
「いっ、いえすんません!風邪ちゃいます、大丈夫です!隊長が変な冗談言うからむせてしまいましたよ!」
俺は笑ってごまかした。
隊長が俺と同じ事考えてくれてるなんて。そんな都合の良い事あるはずないやん。
いつの間にそんな冗談言えるようになったんですか。ツッコミさせたらトッキュー内で右に出るものはおらんこの俺にツッコむタイミングを逃させるとは隊長すごいですよ。なかなか腕のばしましたね。この調子やったら今年の忘年会の出しもんで漫才出来そうですよ!隊長がボケで俺がツッコミ!
ってもう頭ん中わけわからん!何考えてるんかわけわからんようになってきた。

―― ・・・・・嶋、本当に大丈夫か?――
「はいっ!ホンマに大丈夫です!めっちゃ元気にしてますよ!ヒヨコ相手すんの元気やないとやっとれません!元気だけは取り柄ですから任して下さい!」
うわ〜絶対今の俺テンションおかしいって!隊長に変や思われてるわ〜〜!

――それは良かった。久しぶりに嶋の元気そうな声が聞けて安心した――

  あっ、終わってまう

「たっ、隊長もお元気ですか!?変わった事ありませんか!?」
――あぁこっちは救難要請もなく変わりはない。大丈夫だ――
「たっ、高峰さんもお元気ですか?」
――ああ、元気だ。嶋がいない分仕事が回ってきて少し大変そうにしているが、まあ大丈夫だろう――
ああ、高峰さんすんません。仕事の件もそうですが、隊長ともう少し喋りたくてつい引き伸ばしのネタに使ってしまいました。

隊長が忙しいの分かってるけど、あと少しだけ!!

「そ、そうや隊長!さっきわかたかの富岡さんが買ってきてくれてたハーゲンダッツのアイスを食べさせてもろたんですよ!確かマンゴー&ココナッツ味やったかな。貰った時一瞬『えっ!?』ってなったんですけど、食べてみたらこれがえらい美味しかったんですよ!」
――そうか、それは良かったな――
「あのっ、隊長?」
――なんだ?――
「今度洋上から戻ったらそのアイス買っていきますんで、…一緒に食べませんか?」
ドキドキドキドキ…

――あぁ、楽しみにしている。――

うわ〜!もうアカン!やっぱ隊長大好きや〜!こんな都合のいい話あるんやろか!幸せすぎるもん!話がうますぎる!目が覚めて実は夢でしたなんてオチが待っとるんとちゃうやろな!いや、もういっそのこと夢でも妄想でもなんでもええわ!

―― ・・・・・ま、嶋本?――
「あっ、はい!すんません!」
――もう少し話したかったんだが基地長が呼んでるようだからこれで失礼する――
「あっ!すんませんでした!!すぐ切りますっ!」
しもた〜〜!喋りすぎてもたっ!欲張るんとちゃうかった!

―― 嶋… ――
「あっ、はい!何ですか?」

――また用がなくても電話かけていいか?――
      !!!
「……はい、いつでも、かけてきて下さい」

――ありがとう。じゃあこれで失礼する。訓練指導気をつけてな――
「はい」

プツッ
ツーツーツーツー…

お決まりやけど頬をつねってみた。
さらに思いっきりつねってみた。
イテテッ!

夢、ちゃうかったんや。
ホンマに隊長からの電話やったんや。

ようドラマやマンガで『幸せすぎて死ねる』ってくっさい台詞あるやん。
何がじゃ!そんなもんで人が簡単に死ねるかっちゅーねん!って今まで鼻で笑ってツッコミ入れとったけど、スマン…撤回するわ。

人て、幸せすぎたらホンマ死ねるかも。
心臓がどうにかなってまいそうになるんや。
そんな事ありえへんのにこのまま心臓がどこかに飛んでいってまいそうなくらい、体全部が心臓になってもたんちゃうかってくらい、うるさいくらいバクバクバクバク言っとるねん。



これで俺が死んでもたら、隊長が犯人や――






すいません!あますぎた!タイトルからしてキモあますぎました!
60話、無人島でやっと隊長の登場かと思ったのに出てこなかった(いや出てきたらおかしいやろ!)、嶋があのアイス気に入って後日3隊に戻った時に隊長と食べて欲しいな〜とか、あの携帯は嶋の携帯なんだよね!隊長からもかかってきたりするカモなんだよね!とか自分の願望を全部詰め合わせてみたら激アマになってしまいました。
スミマセン…それだけサナシマに飢えてるって事で許してください。
アイス名は私詳しくないので、E様に頂いた情報の中から使わせて頂きました。ありがとうございます!このアイス美味しかったでしょうか?また教えて下さい!


モドル