62話より
「妊娠か?」
―焼肉店乱入☆編―


     バターーーン!!

突然店内にけたたましい音が響き渡り、店内にいた誰もがその音のした方向へ目を向けた。

「「隊長!!」」
・・・っていうかその腕にかかえてるもんは何ですか!?
俺には、プルプルと震えるチワワ、いやどう見ても恐怖にフリーズしてる女の子にしか見えんのですけど。
登場音にもビビったけどそれよりも何よりも仁王立ちでしかもお姫様抱っこで女の子を抱えて登場した真田隊長に腰抜かしそうになってもた。
(両手塞がっとるから多分あの扉は足で蹴り開けたんやろな・・・)
っていうか、もしかして幻覚か?
俺としたことがジョッキまだ5杯も飲んでへんのにもう酔ってもたんやろか?
そんなもんが見え始めるとは、もう今日は酒もほどほどにしといたほうがいいかもしれへん。
って嶋本が一人でグルグルし始めた時、

「神林!神林兵悟はどこにいる!?」
「エッ!?俺!!」
店の入口から店内の隅々まで響き渡る大きな声で隊長がいきなり叫んだ。
うわっ!幻覚ちゃう!本物や!!
「ちょっ、お前らはココで待っとれ!たっ、隊長!俺らはココですっ!」
そう言いながら嶋本はあわてて靴をひっかけて、入口でまだまだ叫びつづけようとしてる隊長に向かって駆け出した。

「ありえん…隊長がおなご抱えて登場したで」
「誰だろ?ここからじゃ顔見えないね。でも結構若そうだよね」
「・・・何で俺が呼ばれたんだろ・・・」
「ガッハッハー!ついに真田も女に目覚めたかー!」  ゴキュゴキュゴキュ!! 


「隊長ー!」
「ああ、嶋本か」
「ああ、嶋本か…ちゃいますよ!後から来はるって聞いてましたけど一体どないしたんですか!」
と言って嶋本は隊長の腕の中で恥かしさに耐え切れないように下を向きっぱなしの女の子に目を向けた。
「あ…神林の。」
何でこんなとこにおるん?っていうか何で隊長に抱えられての登場??と嶋本の頭の中はハテナ?だらけになってしまった。
「あ・・・兵悟君の教官さん…お、降ろしてください〜〜」
佐世保で会った事もあり、先日のTVで兵悟の教官として映ってた事もあり、この人ならまだ話が通じるかも…とユリは嶋本にこの状況下から助けてと哀願した。
「なっ、何や自分半泣きやんか!隊長何したんですか!とりあえず彼女降ろしたって下さいっ!」
「あぁ」
足元に気をつけろ――という配慮を忘れず、真田はユリをやっと解放した。
ユリは途中までずっと真田に降ろしてくれるよう頼みつづけたが、頑として受け入れられず、あまりにもユリが腕の中で抵抗するものだから途中通りかかった橋の上で「これ以上抵抗するようならココから落とすぞ」と本気か冗談か区別のつかない事をあの無表情のままで言われ――
はい、ユリは妊娠なんてしてませんが、こんな所で死にたくないのでおとなしく真田さんの言う事を聞きます。――と抵抗を諦め、おとなしく真田に従い、今に至るのだった。

「一体何があったんですか??っていうか高峰さんっ!?」
隊長のインパクト強烈すぎる登場のおかげでうっかり見逃していたが、よく見ると隊長の後ろには11月も半ばなのに半袖Tシャツ1枚という寒そうな格好で、キャリーバックにスーパーの袋(長ネギ付き)を下げた高峰さんがハァハァ言いながら立っていた。
「大丈夫ですか!!」
「あ、あぁ何とか。隊長歩くの速くてね。これ彼女の持ち物なんだ」
おっ、俺が運びますから!――と嶋本は高峰から荷物を受け取った。そして、
「とにかくココじゃあ何ですから、奥に移動しましょ」
と真田と高峰とそしてまだ恐怖から立ち直り切れてないユリを奥の座敷に招いた。



「ユ、ユリちゃんっ!?」
「ひょ、兵悟くんっ!!」
  うわぁああ〜〜んっ!
やっと兵悟に再会出来た嬉しさと今までの孤独と、そして真田のありえない思考回路と行動に振り回された緊張が兵悟の顔を見た途端一気に弛んでしまい泣き出してしまった。
「えぇ〜〜っ!ユリちゃんどうしてココにいるの!?何があったの!?っていうか何で真田さんと!?」
いきなりのユリの登場そして号泣に兵悟はわけがわからずただ自分もパニくるしかなかった。
「なんじゃ?兵悟の知り合いか?」
「可愛い子だ・・・」
大羽とタカミツはユリを見たことがなく、真田が連れてきた女性が座敷に顔を出すなり兵悟に泣きつく光景を目の当たりにし、この二人もまた状況把握が出来なかった。


「東京に来る用事があったからビックリさせちゃおうって思って観覧車乗ったらイチャコラカップルがいっぱいで、でも都会の素敵女子さんに励まされてそろそろチャンポン食べないな〜なんて思ってみたりして、でもストーカーだから会わない方がいいって真田さんが、私、いきなり・・・うわ〜〜〜ん!!」
「ユリちゃん落ち着いて!!とりあえず水でも飲んで!!」
必死に説明しようとしてくれたが兵悟には最初の一文しか理解できなかった。
「神林・・・」
「は、はい!」
座敷に腰を下ろした真田が兵悟に声をかけた。その声のトーンにただならぬオーラを感じ、兵悟は慌てて正座をしなおした。
「お前何のん気にこんな所で肉食べてるんだ。お前に会いたい一心で彼女はやって来たんだぞ」
「はい、すみません」
「こんな寒い中彼女を外で待たせて…」
「はい、すみ…」
「お腹の子に万が一の事でもあったらどう責任取るつもりなんだ!!」

「「「お腹の子ぉぉお〜〜〜〜!!!!」」」

兵悟だけでなく、その場にいた嶋本、大羽、タカミツまでが一気に反応した。
「えっ!ユリちゃん!子供出来たの!?おっ、おめでとう。相手は…俺も知ってる人、なのかな…?」
話がどんどん変な方向に広がっていってるよ〜〜!おっ、お母さん…ユリには修正不可能です・・・
  うわぁぁあ〜〜ん!!
ユリは最早お手上げ状態のこの展開に泣くしかなかったが、この泣きがますます真田のスイッチを押してしまったらしい。

「神林っ!お前は自分のした事に責任も持てない男なのか!」
「えぇ〜っ!俺!?」
「わざわざ話があると上京して来られたんだ。お前以外の何処にこの子の父親がいるというんだ!」
「えっ、でも俺D…」
「この期に及んでまだ言い逃れをする気か!」
「ヒィイッ!」
「男なら男らしくきっちりと責任を取れ!」
「は、はひ…」
「嶋本」
「はい・・・」
「今すぐ婚姻届を用意しろ」
「えっ!?」
「このままでは彼女が未婚の母になってしまう。善は急げだ」
「はいっ!」
ってこんな時間役所に走っても婚姻届もらえるんやろか?提出は24時間受け付けてくれるて聞いた事はあるけど…―― しかし今ここでそれを口に出す事は出来なかった。
そして嶋本は近くの庁舎までダッシュさせられるハメになった。

そしてこの状況下、唯一妊娠説が隊長の勘違いと気付いている高峰は心の中で
――私が隊長を止めきれなかったばかりに話が広がってしまってすみません。――
と心の中で嶋本や神林に謝っていた。



おわり☆


こんだけアホみたいにひっぱって最後はオチなしかよ!な逃げですみません!一体隊長はいつ自分の勘違いに気付くのでしょうか?そしてそれを一体誰が言い出すのでしょうか? 
勘違いに気付くところまで書きたかったんですが、これ以上締まりなく引き伸ばすのもな・・・って感じだったんで。
この関連で一つサナシマ書きたい事が出来たんで、またそれは別でアップしたいと思います。
おそまつさまでした。 



モドル