72話より
くわっ!!


初めて隊長の目覚めを見た時はホンマに泣きそうになったで。
いや、泣きそうやなくて、泣いてもたっちゅーねん。
まぁ今は程よく慣れてきたけど。それでもやっぱり今でも心臓に悪いな。
隊長にはオンかオフかこのどちらかのスイッチしかないみたいで、中途半端にまどろんだりっていう中間モードは無いらしいねん。
さすがロボや…

ん?何??
俺が初めて隊長の目覚めを目撃した時の話を聞きたいって??
んーーそうやな〜ちょっとアホすぎるけど笑ったらアカンで。

最初はな、プライベートじゃなくて基地の仮眠室で目撃してん。

あれは、俺がまだ三隊に入隊して間もない頃やった。
憧れの真田隊長と一緒の隊になれてもうすんごい浮き足たっとった時期や。
この頃はまだ隊長ともそんな関係にはなってないから、俺と隊長はまだまだ普通の上司と部下。
手も握った事ないてんで清らかな関係だったわけで・・・ って何言わすねん!!
危うく馴れ初め話になる所やったわ!

まぁそんな感じでこの頃の俺は、隊長の神兵伝説とあの外見から想像し得るクールでかっこいい隊長像を100%信じきってたわけよ。
 

 ***


「嶋、そろそろ仮眠に行ってきたらいいよ」
「あっ、ハイ。んじゃお先に行かせてもらいます」
この頃すでに高嶺さんも三隊におったな。入りたての俺に三隊のあれこれをいろいろ教えてくれてようお世話になったわ。

「そうそう、真田さんも今仮眠してるけど起こさなくてもいいからね」
「はい、わかりました」

まだこの頃隊長は隊長じゃなかったから皆から普通に名前の方で呼ばれてた。
三隊に入ってから何度か夜勤もしてきたけど、仮眠時間が隊長と被るのはこの時初めてで、あの憧れの隊長、いやいやこの時はまだ隊長ちゃうかったから真田さんやな、憧れの真田さんも今仮眠室で寝てはるんや。普段クールな感じやけど寝てる時ってどんな感じなんやろ?やっぱ寝てる姿もめっちゃクールでかっこいいんやろか・・・と仮眠室に向かう俺はちょっとドキドキしながらも一秒でも早く見てみたくて足音を立てないように急いだ。


   カチャ・・・

そぉーっと、そぉーーーっと ・・・

普段から仮眠室に先人がいる時は物音を立てないように入るけど、この日の俺は普段以上に物音立てないように息も止める勢いで、隊長の睡眠を妨げないようにと仮眠室の扉をひねった時から緊張MAXやった。
っていうか俺の心臓うるさすぎ!
部屋中に心拍音が響き渡ってうるさいんとちゃうかって心配になるくらい、あの時の俺は体全部が心臓になったような感じやった。
これから仮眠を取る為に仮眠室に来たっちゅーのにこんなに心臓バクつかせてどないすんねん!寝るに寝られへんぞ!って今となれば思うけど、あの時の俺はまだまだ若かった。仮眠目的のはずがいつの間にやら隊長の寝顔拝見がメインになってもとった。

そぉーっと、そぉーーーーっと・・・

仮眠室に入ると右側と左側の壁に配置するように二段ベッドが添えつけられている。一応4人までは一気に仮眠取る事出来るけど、そんな皆一緒に仲良く仮眠取りましょって事はないんで、仮眠を取るにしてもだいたい一人もしくは二人くらいずつだ。


真っ暗な仮眠室の中。
明るい所から入ってきたんで暫く暗闇に慣れるまではよう分からんかったけど、右側のベッドの下の段で隊長は寝てはるっぽい。布団が膨らんで見える。
俺は隊長の場所を確認すると、この時ばかりはホンマに息を止めて、足音を立てずに隊長の寝ているベッドに近づいた。

うわ〜〜〜真田さんや!ホンマにあの真田さんが寝てはるよ〜〜!!

俺のテンションは最高潮やった。
やっぱ寝てる時も何か様になっとるっちゅーかかっこいい〜〜!

とそこで止めておけばいいのに、欲が出た俺はベッドの横にまた物音を立てないようにそぉーーっとしゃがみこんでもてん。
そして隊長の寝顔をそぉーっと覗きこんだ。

うわぁ〜!真田さんの寝顔初めて見た〜〜〜!!
っていうかこんなに間近で真田さんの顔見たの初めてや〜〜!!
めっちゃ鼻筋キレイに通ってるよ!普段片二重やけど寝てる時ってあんまり違いないんや〜〜〜!布団にキュッって包まってる姿がなんかクールな真田さんにしてはちょっと意外でめっちゃ可愛いかもっ!!

と、興奮も最高潮の俺は、隊長が寝ているのをいい事に、普段じゃ見れないからと未だに呼吸停止したままで隊長のかっこいい寝顔を暗い部屋な分しっかり目を見開いてまじまじと拝ませて頂いてた。

しかし、もう目的の隊長の寝顔も見れたんだから早く切り上げて自分もベッドに戻ればよかったのに、あの時の俺は欲が出てもたんやな。

もぉちょっとだけ見ていたい。
次いつこうして見れるかわからんしな。
と。

あっ、真田さん、よう耳を澄ましたら『スースー』って寝息が聞こえる!!
うわ〜〜〜ホンマに寝てはるんや〜〜!

と隊長が目を瞑っているだけでなく本当に今まさに寝ているという事実を認識して妙に興奮してもた。

こんだけ寝てはったら、ちょっとくらいほっぺたとか触らしてもろても起きはらへん、よな・・・
ちょっとくらい、一瞬だけなら、ええよな。

いや、全然よく無いって!落ち着けって!っていうか早よベッドに戻れって!当時の俺めっちゃストーカーやん!!変態やん!!

 ゴクリ
と生唾を飲み込んだ。
心臓はこれでもか!ってくらいバクバクしてる。
そしていざ!とベッドの縁を掴んでいた手を離したその時!

   くわっ!!

「ギッ、ギィヤァァァァアーーーーッ!!」
   
   ズササササッ!! 

    ゴチィッッ!!

隊長がい、いきなり目を見開いてん!
何の前触れもなくいきなりくわっっ!!って!!
ホンマいきなりやで!
隊長を絶対起こさないようにって細心の注意を払いまくっとったからここで目を覚ましはるなんて予想外も予想外!緊張MAX状態でおった所に予想外のあの目覚め。しかもこっちが逃げる間も与えてくれない瞬間起き。そりゃ叫んでまうわ。
この時、隊長と俺の顔の距離20cmもなかってんで。
今「近づきすぎ」ってツッこんだヤツ絶対おるやろ。俺もそう思う。確かに見入りすぎて近づきすぎた。
しかしその距離であの「くわっ!」を見てみ。誰でも叫ぶわ!泣くわ!本気で心臓飛び出してまうっちゅーねん!!

叫んだだけでは俺の驚きは収まらず、驚いた反動で座り込んだ姿勢で後ろに後ずさりしてしまい、後ろにあるベッドに思いっきり体と頭をぶつけてもた。でも痛さなんて感じんかったわ。ってかそんな痛みを感じる余裕もへったくれもなかったからな、あの時は。
もうあまりの衝撃と隊長の目覚め方の怖さに瞬きもできへんし、隊長から目をそらす事もできへんかったもん。
口が何か言おうと思っても、水槽からすくいあげられた金魚みたいにパクパクしてもて何も言葉を発する事が出来んかった。
恥かしい話やけどオバケ屋敷とかでも泣いた事ない俺が驚いて泣いたのってあの時がホンマ初めてやったわ。

しかしホンマに恥かしかったのはこの後や。

あまりの驚きに遠慮も何もなく叫んでもたから、クソ狭い基地に響き渡るには十二分すぎる大きさやった。
まだ起きて仕事をしていた三隊の残りの隊員が「何かあったのかっ!!」と仮眠室に飛び込んできはった。

その時の他の隊員が見た光景は、
まず隊長は、ベッドの上でムクリと起き上がり、俺のいきなりの悲鳴にわけがわからない状態で目をパチクリさせていて、俺はというと、隊長と反対側のベッドに背をつけるようにしてへたり込んだまま未だ隊長から目を離せずにガクガクと泣いている。

「真田!何があったんだ!?」
「・・・さぁ、起きたらこの状況だった」
「嶋本!大丈夫か!何があった!?」
他の隊員が俺の元に駆け寄ってきて状況を聞こうとするが、この時の俺はあまりの衝撃に脳が未だ大混乱で状況説明なんてできる状態じゃなかった。
「すっ、すんません!・・・もう、もうしませんから!!・・・ヒック、・・・ヒック」


この後、暫くしてやっと落ち着いた俺は、隊長だけではなく、三隊のみんなの前で事の全貌を白状するハメになったのは必至で、その後全員に大笑いされ、更にはその日のうちに他の隊にまでこの話が広がってしまった。

あ〜〜〜もう今思い出しただけでも恥かしすぎる…

あの時は俺だけでなく隊長もかなり他の隊員からからかわれてたからな。ホンマ隊長には悪い事したわ。


「真田〜モテモテだな〜〜」
スンマセン・・・
「真田〜神兵も大変だな〜〜〜おちおち寝てられんな」
ほんまスンマセン・・・
「おう!真田!嶋本に寝込みを襲われたってな!」
それちょっと違いますけど…でもやっぱスンマセン・・・



「真田さん・・・俺が真田さんの寝顔見てみたいなんてアホな事考えたばっかりにえらい迷惑かけてもてホンマすんませんでした!!」
と後日、基地にちょうど隊長一人だけやった時に怒られるの覚悟で謝りにいった。
そしたら隊長、
「いや、気にするな。俺もお前が寝ている時に寝顔を見たことがあるから」
と。
「えっ!?」
「お互いに寝顔観察したと言う事で、おあいこだ」
ええっ!?真田さんが俺の!?ええっ!?いつの間に!?っていうか何で!?
「お前は本当に幸せそうな顔をして寝ているな」
「・・・そっ、そうなんですか!?」
恥かしすぎる!コレって罰ゲームですか!ほんまスンマセン!!
「しかしお前は緊急出動の放送とか呼び出しの声とかには敏感だが、一旦寝るとそれ以外の事にはかなり鈍感だな。」
「ええっ!?そっ、それってどういう事ですか!?」
それ以外って何なんですか!?
「・・・さぁどういうことだろうな」


とまぁ、こんな感じで後日隊長の反撃付きでこの話は終わりや。
ホンマ今思い出しただけでも身震いするくらいあの隊長の目覚め方を最初に見た時の衝撃っちゅーか恐ろしさは忘れられへんわ。



えっ?隊長が言ってた『それ以外』が何かって??


・・・そんなん恥かしくて俺の口から言えるかっ!!



おわり☆



すみません。もうあの「くわっ!!」にはやられました。さすが隊長!素敵な目覚めです。あ〜もう大好きっ!
しかし最近のタイチョは一コマだけで絶対その週の笑いの全てをかっさらっていってる気がするんですが・・・
プライベート編でコレ書いたらせっかくの二人だけの朝にまったり感もあったもんじゃないんで、とりあえず仮眠室で目撃にしてみました。
毎回ヘンなポイントに反応したSSですんません…



モドル