「隊長…。何で、箸なんですか?」
「??」
テーブルを挟んで目の前に座っている真田に嶋本が訊ねた。しかし訊ねられた本人は突然の質問に意図を理解出来なかったようで嶋本の顔を不思議そうに見つめ返した。

「いや、今日だけやないんですが、カレーとかのスプーンで食べるような料理の時でも、いつも隊長はスプーン使わんと箸で食べてはるな〜て思って」

今日のメニューはカレーライス。
大鍋いっぱいにカレーが作られ、その横にこれも大型炊飯器。各自好きなだけ自分で取り食堂室で食べる。洋上訓練中の船内で展開されているお決まりの昼食風景である。
その風景の中で一人違和感あるものを使って食べる人物がいた。
それが三隊隊長、真田甚。
彼は、カレーをスプーンではなく箸でもって食べていた。そしてそれはこのカレーに限らずいついかなる食事であっても箸を愛用し、スプーンを使う姿をみた事無かったので嶋本は前々から密かに気になって仕方なかったのだ。
そして今日ついに我慢しきれなくなったのか、真田に質問をぶつけてみた。

「ああ、これか。箸の方が使い慣れてるからな」
「えっ!でもカレーを箸でって…すくいにくぅありませんか?」
そう聞き返したくなるも至極当然。そりゃ日本人なんだからスプーンよりは箸の方が使用頻度も多く使い慣れてるはやけど…
でも、やっぱりカレーはスプーンの方がすくいやすいでしょ――

「そうでもないぞ」
あっさりと真田に返されてしまうと何か箸でも意外と掴み易いのかな?という感じがしてきた。
「ホンマですか?」
そう言うなり嶋本は目の前にあった箸置きから箸を取り、目の前の食べかけのカレーに挑戦してみた。

  ポロッ
  ポロッ
  ポロポロッ
  ・・・・・・・   ポロッ


「あーー!イライラするー!全然すくえませんやんっ!」
何度挑戦しても、口に入る前に箸の上から落下してしまう。
隊長の嘘つきっ!――そんな勢いで嶋本は真田にくってかかった。

「それはお前の箸の使い方が悪いだけだ」
と一撃。そしてさらに「嶋本は短気だな」と全然違うポイントからのダブル攻撃。
  !!! 

「箸の使い方じゃなくてコレって慣れの問題とちゃいますの!?」
嶋本も負けずに反撃をした。

「高峰」
「はい」
「一度箸で食べてみてくれないか」
「は、はぁ、別に構いませんが…」
隊長、いきなり高峰さんに話し振ったけど何のつもり…  ッ!!!

  ヒョイ  …パクリ。 モグモグモグ
  ヒョイ  …パクリ。 モグモグモグ


うわっ!高峰さんめっちゃ上手っ!

「これでいいですか?」
「ああ、すまなかった。わかったか、嶋本。ようは箸の扱い方だ。正しく箸を扱えさえすれば高峰のように初めてでも綺麗にすくう事ができるんだ」

うわ〜〜!高峰さんごっつい上手い。何かめっちゃ悔しいっ!
別に箸でカレーが食べれるから得するとか食べれへんから損するとかそんな事全然ないけど、隊長や高峰さんに出来て俺には出来んなんて何や無性に悔しいわ!!

「わかりました!!俺も絶対箸でカレーを流暢に食べれるようになってみせますっ!」

別にスプーンで食べれば済む話だろ。何も箸に拘らなくても…と真田に言われたが、一度スイッチが入ったらとことん極めないと気がすまないのが嶋本の性分。こうなると気が済むまで好きにさせておくのが吉。


そしてそれから朝も昼も夜も嶋本の箸特訓が秘密裏にコッソリと始まった。
まずは箸の持ち方が悪いと隊長に言われたからネットで正しい箸の持ち方ページを探し、プリントアウトし、その紙と日々にらめっこで箸の持ち方練習。そしてそのサイトに掲載されてた箸の持ち方上達法の練習一つ「マメつかみ」をくり返し実践する。
そして家でご飯食べる機会があれば必ずカレー。基地とかで隊長たちと一緒に食する時は、いかにも「練習してますっ!」って姿を晒すのは恥かしいから皆で揃って食べる時だけは何事もないかのように普段どおりスプーンで食べる自分を演じてみた。そして裏では猛練習――


数週間後――-

「隊長見てくださいっ!ホラ!俺も箸でカレー食べれるようになりましたよっ!」

そこには、数週間前ポロポロとこぼして一口も口まで運ぶ事が出来ず悔しがってた姿は一片もなく、とても流暢に箸を使いこなし、カレーだけでなくさらにはデザートのヨーグルトまでも箸で食べれるまでに成長を遂げた嶋本がいた。

「ああ、上手くなったな」
「でしょっ!俺めっちゃ練習したんですからっ!」
そこには心の底から嬉しそうな顔をした嶋本が。しかも嬉しさの余り必死に練習した事をついつい口が吐露してしまっている。…しかし本人は自分が言ってしまった事に多分全く気付いていないだろう。
「嶋、上手になりましたね」
高峰も褒める。
今までスプーンしか使えなかった子供がやっとお父さんとお母さんと同じ様に箸を使ってご飯を食べれるようになった嬉しさから、――お父さん、お母さん見て!見て!お箸使えるようになったよ!――と言ってるかのような微笑ましい家族図が洋上訓練中の船内(食堂室)にて繰り広げられていた。

「でしょ!もう俺何でも箸で食べれますからっ!これからはスプーンなんて必要ありませんよ!」






59話の「嶋、箸でカレーを食べる」図。もうたまらなくかわいかったですよ〜!その後の口いっぱいにカレーを頬張ってるほっぺたも。
しかし「何でカレーに箸やねんっ!」という疑問は抜けきれず、そのきっかけを捏造してしまいました。隊長の影響で使うようになってたら嬉しいです。でもって嶋って箸の使い方とか隊長ほど上手くなさそうな感じがしたので(隊長は別格)こうやって食べれるようになるまでに必死に練習とかしてたらたまらんです!かわいいですっ!萌え!です!
そして箸でカレーを食べれるようになった嶋本は今日に至るみたいな。今では箸が当たり前〜〜三隊全員揃った時みんなが「カレーに箸」だったら最高!そして他の隊から「やっぱ真田隊のやることは分からん…」と奇妙がられてたらなお良しです。


モドル