願い |
「・・・・あれが、メグルか」 「・・・・・」 ICUの中には家族の者しか入ることが許されない為入口から中を見ることしか出来ない。 隣に立ちすくむ大羽。そして視線の先にはぞっとするほどの数の機械と電子音に囲まれた一人の人間がベッドに横たわっている。 信じたくはないがかすかに見える彼のトレードマークである緑の前髪とベッド頭部に付けられた「石井盤」というネームプレートが紛う事なき本人だと証明している。 「・・・・・」 「・・・本当にまだ目を覚まさないんだね」 「・・・・・」 特救から重傷者が出たという知らせは海保内にすぐに広がった。洋上中だったおずにもその日のうちに知らせが回ってきた。 「特救がレスキュー中に事故ったらしいぞ」 誰が事故ったのかという詳しい事まではその時分からなかったけど聞いた瞬間心臓を鷲掴みにされる思いだった。 一体誰が!? 心臓を鷲掴みにされたような圧迫感と共に特救でお世話になった人や未だに付き合いのある同期だったメンバーの顔が次々と思い浮かぶ。 みんな・・・ 大丈夫だよね。 不安でたまらなかった。 しかしその夜大羽から届いたメールで不安が的中してしまった事を知った。 「なんで・・・メグルがこんな事に・・・」 「・・・まだはっきりした原因はわからん」 降下中の事故というのが信じられない。メグルは俺らヒヨコの中で一番降下が上手かった。多分特救内でも上位に入る降下技術を持っているだろう。そんな彼がよりによって何故降下中に!? 「・・・なぁ、メグル。お前何そがあな所でのんきに寝とるんじゃ」 「・・・?」 「寝たフリして驚かそうて思とんのか」 「・・・おお、ば?」 「ワレ早よ目ぇ覚さまさんか!ワシと星野が一緒に見舞いに来たんやぞ!いつもみたいに『いちゃいちゃは二人だけの時にしてくれんね』って憎まれ口たたかんかい!メグルッ!聞こえとるんか!?」 「大羽!声っ!」 慌てて大羽の腕を引いた。隣の待機室から何事かと看護士が飛んできた。俺が「スミマセン!何でもありません」と謝ると看護士の方もこんな所へ見舞いに来る人の複雑な心境はわかってくれているのだろう、「お静かに願いますね」と一言発するとそれ以上のおとがめはなく待機室に戻っていってくれた。 ふぅと胸をなでおろし大羽に視線を戻てみると、 泣いていた。 泣き顔を隠すことも涙を拭うこともなく視線はまっすぐメグルに向けたままただただ声を殺し泣いていた。握りしめた拳に力が入りすぎて小刻みに震えている。 声なんてかけれなかった。 かけようがなかった。 長い沈黙 メグルが生きているという証の電子音だけがやけに鮮やかに耳に届く。 「・・・・信じとおなかったんじゃ」 沈黙を破ったのは大羽だった。 「・・・報告聞いてすぐ駆け付けたかったけど今日まで来ることが出来んで。・・・兵悟や嶋本さんからメグルがまだ目ぇ覚まさんて聞いとったけど悪い冗談やと思とった・・・みんなでワシの事騙しとんやと思とった」 「・・・・・」 「・・・そう思いたかったんじゃ」 なのに―― 消え入りそうな、大羽の身を切るような叫びと電子音が相入れず混ざりあう。 「今日かてこうしてお前と一緒に来たらいつものようにメグルの憎まれ口が聞ける思とったんじゃ・・・・」 世の中そう上手くはいかんもんじゃのぉ、と大羽は笑って言おうとした。が、笑えるはずもなかった。痛々しかった。見ていられなかった。 「大羽・・・・」 「何で起きひんのじゃぁ・・・なんで・・・」 「・・・・・」 「これ以上仲間がおらんようになるんはもうたくさんじゃ・・・・」 頭をがつんと殴られたような気がした。大羽がこれほどまでに悲しむ原因の一つを作ったのは自分だったのだ。俺は自らの力量不足により除隊という形で大羽から仲間を一人奪い彼を傷つけてしまっていた。そして今またもう一人、仲間が瀕死の危機にさらされ奪われようとしている。 頼むメグル 『何ね?自分は大羽君を傷つけておいて人には傷つけてくれんなと?都合よすぎるお願いやなかと?』 目を覚ましてくれたら後でいくらでも喜んで怒られるから! だから頼む! これ以上大羽や兵悟やタカミツから仲間を奪わないでくれ。 俺が言える立場じゃないかもしれないけど頼むから目を覚ましてくれ! 「・・・絶対死ぬなよ・・・メグル」 「うん・・・今は祈るしかないね」 きっと目覚めてくれる。 メグルはこんな所で終わる人間じゃないから こんなにたくさんメグルを待ってる人がいるんだから 絶対戻ってくる! |
+++ 願い +++ 20060820 星大無料配本より |
メグルの入院中ネタ。あのICUの入り口で佇む大羽と星野君がとてもつらそうで・・・あの二人の事がとにかく頭から離れなくて・・・ 当時メグルがその後どうなるのかわからない状態にもかかわらず書いてしまいました。 |