夏祭り

2B


「じゃあ隊長、よーい、テッ!でスタートですよ」
「あぁわかった」
「それじゃあいきますよ〜。よーい、テッ!」




『金魚すくい大人300円』

サイフ出そ思たら隊長が「いい」付き合ってもらうんだからと俺の分も払てくれた。
すんませんゴチになります、と甘えて金魚すくいのおっちゃんからすくいあみと金魚入れる器を受け取った。
隊長が
「嶋本、これをなんというか知っているか?」
とすくいあみを指した。
えっ?
「すくいあみ…?他になんか専門の名前があるんですか?」
知りませんわ〜と降参した。

「ポイだ」

「はっ?ポイ…ですか?変な名前っすね。って隊長ようそんな雑学知ってましたね〜」
って俺が言ったら、店屋のおっちゃんも「兄ちゃん詳しいな〜」なかなか素人でその名前を知ってる人はおらんで〜とびっくりしてた。
そしたら隊長機嫌良くしたんか、さらに
「嶋本、ポイという名前の由来は何だと思う?」
と聞いてきはった。
う〜ん…なんやろ。わかりませんわ〜
また降参。

「金魚をこれでポイポイすくうからポイと名付けられたんだ」

へぇえ〜!そうなんや〜〜!隊長雑学キングや〜
って俺だけじゃなくて店屋のおっちゃんまでびっくりしてるし。なんや本職が知らんかったんかい!
「しかしちょっと笑い話みたいたネーミングセンスですね」
って俺が言ったら、隊長何て言ったと思う?

「冗談だ。今ふと思いついた」

まじですか…
俺だけでなく店屋のおっちゃんも固まってもたっちゅーねん!
だってめっちゃ真顔で隊長が言うねんで!あの真顔で!そんなんホンマの話やて絶対信じてまうやん!
っていうか隊長がこんなしょーもない冗談言うなんて信じられへん。



「嶋本…そろそろ始めないか?」
ああっすんません!って隊長がそんな事言うからフリーズしてもてたんやないですか!

というわけで、気分改めて金魚すくい競争をスタートさせた。




「どいつにしよかな〜」
すくいやすそうなのは〜〜と水槽の中を優雅に泳いでいる色鮮やかな金魚たちを見渡した。
その時、

「嶋本」

突然隊長に声かけられた。

「あっハイ何すか?」

「破れた」

えっ!
うわっ!!ホンマや!!隊長即行破れてるやん!!

「兄ちゃんポイの名前まで知ってたからすごいプロなんかな〜っておっちゃん内心焦っとったけど残念やったな〜。はいこれ参加賞の金魚二匹な。」
って店屋のおっちやんがニヤニヤしながら隊長に金魚を渡そうとした時、

「いや、もう一度やってみよう」
と隊長は参加賞の金魚をもらうのは保留にし、また300円払って新しいポイを受け取った。

「よしやるぞ」
「・・・・・頑張って下さい」
「ああ」
いつもと同じ無表情やから一見わかりにくいけど、付き合い長い俺やから分かる。
隊長今のおっちやんの言葉にカチーンてきて意地になって再チャレンジをしたようや。

このまま隊長が悪い方向に走らんかったらええけど・・・・・
そう祈りながら、俺も気を取り直して金魚すくい再開や。
狙いを定めてぇ〜〜
「っしゃ!コイツや!うらぁっ!」

バシャ!

「っしゃあ!一匹ゲット〜〜!」

俺もやれば出来るやん!
子供の頃は金魚すくいゆうたら紙破った記憶しか無かったから正直今回すくえるなんて思てなかった。
うわ〜なんかめっちゃ嬉しい。やるまではちょっとこの歳で金魚すくいは…ってちょっと恥かしかったけどやっぱやってみるとおもしろいもんやな!

「隊長!俺一匹すくえっ・・・!!」
!!!
隊長を見てビックリしてもた。

「たい、ちょう・・・」

「・・・・・・」

隊長また早々に破ってもてる…
何したんですか?破るの早すぎですよ…

「兄ちゃんまた残念やったな〜さっきの金魚袋の中に今回の参加賞の金魚二匹も入れとくな」
とおっちやんが金魚を渡そうとしたら、
「もう一度チャレンジだ」
とまた隊長はやり始めた。

ヤバい・・・

何か嫌な予感的中っぽいんですけど。

しかし2回もやって一匹もすくえへんて一体どんなすくい方してるんやろ。
気になったからしばらく様子見てみることにした。


最初はじぃ〜っと狙いを定めてる。
うん、ここは一緒や。

おっ!隊長動いた!

バシャッ!!

って何狙いよるんですか!!

あ〜あ・・・
そりゃ破れますよ。
っていうか破れて当然ですよ。

隊長が狙った金魚は、客引き用か色のアクセント用に入れられた黒の出目金やねん。
そりゃ一発で破れもするわ。
だってこの黒出目金、普通の赤金魚と比べてもゆうに3倍以上はあるめっちゃデッカイ金魚やねんもん。
でかすぎますて!
何でそんなもん狙うんですか!
普通これ狙う人いませんて!

「嶋本…」
「はい」
「また破れてしまった」
「…そのようですね」
ばっちり見させてもらいました。

「こんなはずではなかったんだ・・・」
えっ!こんなはずでは、てあんなどデカい出目金すくえる自信がありはったんですか!

「よし!もう一度するぞ」

「えっ!またやるんですか!」
出目金狙いじゃ何回したて無理ですて!

「嶋本」
「あ、はい」
「今心の中で無理だと思っただろう」
「えっ!そっそんな事思てませんよ!」
何でバレたんや!もしかして顔に出てもとったか!?

「すくえるまで何度でもしてやる」

えぇぇ〜〜!

「隊長そんなたかが金魚すくいですやん!そんなムキにならんでも…」
「いや、ここで終わっては明日からの海難に集中できない」
「ちょっ、それは困ります!っていうかそないに金魚の事を引きずらんとって下さい!」

もう隊長が言うとどこまでが本気でどこまでが冗談かわからんからホンマ怖いわ。
って隊長、サイフから五千円札取り出しはったけど何するつもりですか・・・?
「いちいち300円払うのが面倒だからここから差し引いてくれ」
と言って店屋のおっちゃんに渡しはった。
マジですか〜〜!?
店屋のおっちゃんもホンマにこんなに何回もええんか?ってな表情で俺にチラリと視線を送ってきた。
そんな視線送られても俺には止められへんて!

「さぁやるぞ!!」

はぁ〜〜〜っ
ほどほどに頑張ってください…。



――――――――


「隊長・・・この金魚・・・どないします??」
「・・・そうだな。」
隊長の手に吊るされた金魚袋を覗き込んだ。
・・・・・キモい。
金魚がうじゃうじゃ入っとる。
結局アレから隊長はチャレンジする事13回。
そして1匹もすくえず。
しかもその間のターゲットは出目金一筋!
俺やおっちゃんが途中何度も「赤い金魚の方が絶対すくいやすいですよ」って言ったけど、「出目金でないと意味がないんだ」と、頑として最後まで出目金狙いを貫き通しはった。
出目金に何の意味があるんやろ??ってめっちゃ不思議やったけどその時の隊長は真剣に金魚すくいならぬ出目金すくいに熱中してたから横から聞く隙もなかった。

そして13回目破れてしまった時も、隊長は次14回目にチャレンジする気満々やったけど、ここで祭りの終了時間になったからかなり後ろ髪引かれてたけどしぶしぶ諦めてくれはった。
俺とおっちゃん的には祭りが終わってくれてかなりホッとした。って隊長がチャレンジすればするほど儲かる立場のおっちゃんまでホッとするておかしな話や。

そんなわけでトータルチャレンジ回数 16回。
そして参加賞が1回につき2匹。
つまり参加賞だけで隊長は32匹もの金魚をもらいはった。
そして出目金狙いつづけて1度もすくえなかった隊長を不憫に思ったのか、店屋のおっちゃんが「頑張り賞」という事でさらに出目金を1匹おまけでくれて、合計33匹。
で、俺がすくって貰ろた金魚の数は3匹。隊長をヒヤヒヤ横目で見ながらも一応俺も破れるまでは頑張ったで。で、全部で6匹すくえてん!俺的には自己最高記録やったけど、それを隊長に言うタイミングすらなかった…。隊長、出目金に夢中すぎです。

「隊長も俺も家で飼育するのは無理やから、基地長にお願いして基地で金魚飼いましょっか!」
「それはいい案だな。たしか実家に水槽があったから近いうちに基地に送ってもらうように連絡しておこう」
「んじゃ、一旦家に金魚持って帰るものあれですから今から基地に金魚置きに行きませんか?とりあえずバケツにでも入れておいたら大丈夫でしょ」
今から晩ご飯食べに行くにしても、帰宅するにしても、この金魚を持ち歩くのはかなり邪魔やし、ここは基地の隣駅やから基地に一旦戻って置いて来る方がなんぼか効率もいいと思う。
男二人が金魚ぶら下げてるって絵図らもかなり恥かしいもんがあるしな。しかも、隊長の金魚の量は半端じゃないし。こうして駅に向かって歩いてる間にもめっちゃ目を惹くようで、すれ違う人全員が隊長の金魚の量を見て目をひんむいてビックリしてる人ばっかりや。まさかこれが全部参加賞の金魚やとは思いもしてないやろな…。きっと隊長は金魚すくいプロやと思われてるはず。

はぁ〜〜しかしまさか隊長がこんなに金魚すくいが下手、いやいや出目金に拘って意地になりはるなんて・・・
かなりビックリしたで。隊長の意外な一面を見てもたって感じ。
隊長には悪いけど、もう祭りで金魚すくい誘うのはやめとこ。



+++++++++++++++++++++
---後日談---

隊長が出目金に拘ったわけがわかってん!
基地に金魚を置いてから食べに行った晩飯屋で金魚の話になったから思い切って聞いてみてん!そしたら隊長何て言ったと思う!?

「小さい頃に『出金魚のデメちゃん』という絵本を読んだんだ。その中で主人公の黒出目金のデメちゃんはみんなと違う色と形をしているから赤い金魚たちからいじめられているんだ。そしてデメちゃんは「僕を早くすくってくれる人が現れないかな〜」と金魚すくいの水槽の中でいつも寂しく泳いでいる、というあらすじだったんだ。その絵本を読んでからは夏祭りの度に金魚すくいに通い、黒出目金をすくっていたんだ。あの頃の黒出目金は今日みたいに大きくなかったからすくえていたんだが、今日の店の黒出目金は大きすぎた…」

小さい頃の隊長っ!!かっ、かわいすぎますっ!!!
なんてピュアな子やったんや!!
その話を聞いた時思わず目頭が熱うなってもたで。
そやから今日も隊長はあんなに出目金に拘ってたんですね。
くおぉぉ〜〜っ!!!
今の隊長もめっちゃかわいいやないですかぁぁ〜〜!
最初にそれを話してくれてたらあの奇怪な連続チャレンジもめっちゃ応援出来たのに。


前言撤回!!

「隊長!また他の所で夏祭りあったら、そこの金魚すくいも是非行きましょ!ほんで今度は俺も出目金狙いますから、二人でデメちゃんを救助しに行きましょっ!!」

「嶋本も協力してくれるのか?」

「勿論ですっ!!俺らはバディですやん!」




おわり


金魚すくいがめっちゃ上手いタイチョ話(2A)の方を書いてから、逆に全然すくえないタイチョ話(コレ)も書いてみたくなって、2択にしてみました。笑。
タイチョのレスキュー魂は小さい時からも健在だったら嬉しいです。例えそれが金魚でも。



モドル